退行催眠とは?
2022年2月10日
この記事の執筆責任者:クリアライトヒプノセラピースクール代表:今本忠彦世界最大級の会員数と最も長い歴史を誇る米国のヒプノセラピストのプロ団体、NGH米国催眠士協会(National Guild of Hypnotists)のマスタートレーナーとして活動中。2009年より現在まで、800名を超えるプロのヒプノセラピストの養成実績を誇る。執筆書に、『世界基準のヒプノセラピー入門(河出書房新社)』がある。
退行催眠について
退行催眠とは催眠トランスにおいて過去の記憶やイメージに戻る催眠手法のことを言います。
退行催眠には主に2つのテクニックがあり、その一つが幼い頃の記憶や体験のイメージに退行する”年齢退行”と呼ばれているテクニックであり、もう一つは前世の記憶やイメージに退行するもので、これは前世療法とか、過去生退行、と呼ばれています。
また、お母さんのお腹に中にいた頃の記憶や体験イメージに退行するものは「胎児期退行」などと呼ばれています。
年齢退行とは?
年齢退行(Age Regression)とは催眠トランスを利用して、クライアントの幼い頃(0歳から5歳ごろまで)の記憶や過去のイメージを掘り起こす催眠手法のことを言います。
テクニックとしては、クライアントを深い催眠トランスに誘導した後、潜在意識に対して、「問題の原因となっている幼い頃の記憶に戻れ」と命じることで退行が起こります。
なぜ?年齢退行なのか
社会学者のモリス・マッセイ博士(Morris Massey)によると、わたしたちは、特に0歳から7歳までに体験したことを一般化させて暗示として潜在意識にプログラムします。そして、これらの積み重ねがあなたの性格や行動の元になっています。
このような理由から、彼は、「あなたが7歳までにどうすごしたかが、あなた自身である。」と言っています。
特に、幼い事に体験した否定的な経験は、トラウマとして潜在意識の深いところにプログラムされており、それが大人になってからも否定的に作動するのです。
よって年齢退行テクニックを使うことで、抑圧されていた否定的な感情や制限を開放します。
年齢退行で行う主要な2つの仕事。
年齢退行はとても高度なスキルと経験が求められますが、やることは、大きく二つです。
1つは、問題の根っこになっている、幼いころの記憶、あるいはイメージに絡みついた否定的な感情を催眠状態において「正確に掘り起こす」こと。
そして、もう一つは、引き出した記憶やイメージに対する認識をポジティブなものにして「問題の根源を癒す」。
この二つです。
年齢退行の主なテクニック
感情の橋は、ワトキンス(Watkins:1971年)により名づけられました。このテクニックでは、現在の不快な感情と、それと同じ不快な感情を最初に体験した過去の状態とを直接つなぐことで退行が起こります。セッションでは、まず、クライアントが覚醒状態の時に、その不快な感情についての描写をしてもらいます。そして、その感情は、催眠状態において注意の集中を高めるよう指示することで増幅されます。
実際にクライアントを催眠誘導して、その感情がとても強い時、ヒプノセラピストはクライアントに対して、「その問題の原因となっている幼いころへ戻りなさい。」と命令します。
そうすることで、クライアントは現在の不快な緊張の原因となっている場合が多い、過去の出来事に向き合うよう誘導されます。
退行するターゲットとなっている出来事がすでに分かっている場合は、カレンダー法を使用します。クライアントを催眠に入れてから、以下のように誘導します。
「・・・あなたの目の前に、今日の日付の載ったカレンダーがあります。そのカレンダーを鮮明にイメージしてください。では、今日の日付に注目して、その日付をありありと見つめてください。今、カレンダーのページが1ヵ月前に戻ります。さあ、カレンダーのページがどんどん早くめくられていき、1年前まできました。
(特定した年の1年前に来たら、クライアントがその時間までの枠に集中できるよう、カレンダーをめくる速度を落とします。そして、あらかじめ決めていた日付まで進みます・・・そして、起こっていることをすべて体験させ、詳細にわたって描写できるようクライアントを誘導します。)
年齢退行の危険性
年齢退行はしっかりした知識とスキル、そして経験のあるヒプノセラピストから受けるべきです。そうすることで、効果を実感することができるでしょう。しかし注意すべき点は、知識とスキルが未熟なセラピストから受ける場合です。そして、やり方によっては有害なものになるという危険性もあります。
では何がどう有害なのかをここでまとめましょう。
問題の根源を正確に掘り起こすスキルの不足
年齢退行は問題と思われる否定的な感情の原因となっている幼い頃(0歳から5歳ぐらい)の体験イメージに退行させるスキルなのですが、その中でも、もっとも古い記憶に到達しなければなりません。
というのは、木の根っこを枯らすことができなければ木はそのまま残るように、年齢退行を行った時も、もっとも深い根源となる出来事を掘り起こさなければいけません。
歯の治療をする時も、根っこにある腐った神経をしっかり取り除かなければ、歯はよくなるどころが更に悪くなるでしょう。
年齢退行では、問題の根源となっている出来事は、しばしば、0歳から5歳にあるといわれています。
しかし、潜在意識に対して「その問題の原因となっている幼いころに戻れ」と命令しても、必ずその根源となるシーンが掘り起こされるとは限りません。
例えば問題の根源となっているのが1歳であるにもかかわらず、実際に退行して出てきたシーンが3歳だったとしましょう。
しかししっかりしたスキルがなければ、3歳のころの出来事が根源となっている出来事だと勘違いしてしまい、最も深い根源を残すことになります。
方向性のフレームがわからずに年齢退行を行う
年齢退行を行って根源となる出来事を掘り起こせば、ほとんどのトラウマは、両親との関係性に関わるものです。
そこで、すべての過ちを加害者である両親のせいにして彼らを恨むようにもっていくセラピストがいる反面、両親は両親なりに一生懸命やった結果であったと諭し、両親のことを許す方向にもっていくセラピストもいます。
つまり、トラウマとなっているシーンをどのようなフレームで扱えばよいのか?どのような方向性にもっていくのがよいのか?これによって退行後の結果は180度違うものになります。
危険なセラピーとは問題の根源となる責任のすべてを両親のせいにして、両親を恨むようにもっていくセラピストによって行われた場合におこります。
感情を掘り起こせば良くなると思い込んでいるセラピスト
幼い頃のトラウマ経験によって植えつけられたネガティブ感情は、表層意識に出てしまうと邪魔なので、潜在意識はそれをバックのようなものに閉まって触れないようにしています。
しかし、年齢退行を通して、このバックを開けてしまい、中にしまい込んでいるネガティブなエネルギーを解放すると、当然ながら中にしまい込んでいた否定的な感情は一気に表層意識に上がってきます。
すると解除反応といって、涙が流れ出すなどの急な反応が起きますが、スキルがないヒプノセラピストがこれを行った場合、否定的な感情をさらに強化する可能性があります。
抑圧されていたエネルギーを上手く解放するためには、そのトラウマ(精神的外傷)を意識化し、解放し(このプロセスを精神科医は浄化作用と呼ぶ)、そのときの感情と学んだことを上手く統合しなければなりません。
しかしこれをするためにはかなりの知識とスキルが必要です。
「掘り起すだけ起こして涙を流させればいい」
という安易な知識とテクニックしか持ち合わせていないセラピストによって行われる年齢退行は、否定的なエネルギーをさらに増幅させ、問題をさらに深刻化する可能性があるので危険です。
年齢退行に関する専門書
ここで紹介する年齢退行に関する専門書は、すべて英語になっていますが、英語に自信のある方でこのテクニックの熟練を目指している方は、是非、チャレンジしていただきたく思います。